1. 病気の予防と害虫駆除(病害虫防除)

7月に入り、梅雨明けと同時に猛暑がやって来るのが、日本の夏です。完治しなかったウドンコ病は、乾燥と高温で自然に下火になりますが、クロホシ病は、まだまだ油断できません。実際には6月の罹患を引きずっている場合が多いので、6月の手入れが行き届いていれば、晴天が続く今月は、葉の表面の湿気が少ないので、あまり発生しないものです。ところが、ウドンコ病で弱った葉や、暑さで衰弱した株は、病原菌に対する防御力も低下しているので、どこかに潜んでいるクロホシ病菌に侵され易く、依然注意が必要です。
一般に黒点病と言われていますが、正式にはクロホシ病(黒星病)です。この病気にかかると,葉に黒いスポットができ、次々と伝染し、やがて落葉します。バラではごくありふれた病気ですが、怖い病気で、放っておくと枝や幹まで侵され枯れることもあります。この病原菌は病斑表面の柄子殻で越年し、伝染源となります。気温が20℃前後の多雨時に菌が飛散し、水滴のたまりやすい葉の表面などに付着すると6〜7時間で葉の内部に侵入し、3〜6日で葉の内部を侵し、黒い点を現して発病します。この黒いスポットは病原菌のかたまりで、やがてはじけて飛散し、次々に感染します。
この病原菌は、葉の上に水分がなければ感染しないので、夏の晴天続きには殆ど感染しませんから、雨が降りそうなときに薬剤散布をするのがベターです。雨が降ると薬剤が流れ落ちて無駄になると思わないでください。散布後2時間ほどで薬剤が乾燥すれば、雨が降っても80%は有効です。
クロホシ病の治療の薬剤には、サプロール乳剤やマネージ乳剤、ラリー乳剤などがあります。治療薬と言っても葉の表面にとどまっているうちは効きますが、内部に侵入した病菌をたたくことは難しいので、クロホシ病の斑点を見つけたら、ほかの葉は健全そうに見えても、やがて病斑が現れると推察して、葉柄ごと取り除き、しかも病斑が現れた葉の上下の葉も、侵されていることが多いので、やはり枝のつけ根から病葉と同じように葉柄ごと取り去ります。
ミニバラの鉢植えが沢山あると、地面に近いせいか病菌が降雨のはね上がりで、真先にクロホシ病にかかります。ミニバラは丈夫なので、ほとんど葉が無くなるほど切り詰めてもすぐ芽吹き、回復しますから、クロホシ病が蔓延していたら、いちいち葉を取り除くのも大変なので刈り込んでください。私の庭は鉢植えのミニバラが700〜800鉢、ところ狭しとひしめき合っているので、ミニバラからクロホシ病が広がります。ひどくやられた鉢物は丸坊主に刈り込み、庭の隅に隔離して回復を待ちます。
害虫では、ハダニが暴れまわる季節です。高温と乾燥を好む害虫なので、6月に生き残っていたハダニは、梅雨明けを待っていたかのように、爆発的に増え、手に負えなくなることがしばしばです。葉色が薄くなり、葉裏がなんとなく汚れている時は、大抵ハダニが活動し、葉液を吸っています。若い人は肉眼でもよく見えるのですが、老眼になるとハダニを発見することは困難です。ルーペで葉裏を見ると、素早く動き回るハダニがよく見えます。葉液を吸汁加害し、葉が白っぽくカスリ状に脱色し、やがて黄変して落葉します。葉液を吸い尽くすと、新しい葉に次々に移動して加害し、放置するとすべての葉を落葉させるほど、すさまじい被害を与える害虫です。
ハダニは、一般殺虫剤ではほとんど効かないので、専用の殺ダニ剤を使います。同一薬剤を使用し続けると、抵抗性のハダニが増えて手に負えなくなるので、なるべく同じ薬品は年1回にとどめます。4〜5種類の作用機作の異なる殺ダニ剤を用意してください。バラに登録適用のある殺ダニ剤には次のようなものがあります。
| 商品名 |
作用機作 |
| ダニトロン(フロアブル) |
ミトコンドリア電子伝達系阻害 |
| コロマイト(水和剤) |
クロライドチャネル活性化 |
| ニッソランV(乳剤) |
脱皮阻害 |
| ダニカット(乳剤) |
神経伝達の増加 |
| テルスター(水和剤) |
神経伝達機能の阻害 |
地球上に生存する生物すべてに絶滅しないための力が備わっています。それによってあらゆる生物は気の遠くなるような時間を脈々と生き続けているわけです。ハダニもその例にもれません。例えば、ハダニを見つけたので殺ダニ剤コロマイトを散布したとします。大部分のハダニは死にますが、遺伝子的にコロマイトの作用機作である、クロライドチャネル活性化による攻撃には耐えられるハダニが、わずかではありますが生き残ります。
ハダニの生存期間は短いのですが、卵からかえったコロマイト耐性ハダニは活動を始めます。再び同じコロマイトを浴びせても、効き目はありません。3回、4回と同じコロマイトを散布するたびに耐性ハダニが増加し、やがて手に負えなくなってしまいます。
コロマイトを使った後のハダニは、ほとんどコロマイト耐性ハダニなので、ハダニの発生を見たら、例えば、異なる作用のニッソランV(脱皮阻害)を散布します。コロマイトのクロライドチャネル活性化に耐えたハダニも、脱皮阻害には弱いかもしれません。しかし、脱皮阻害に強いハダニも必ずいるはずです。また現れるかも知れません。ハダニが現れたら、ダニトロン(ミトコンドリア電子伝達系阻害)を使います。
こうして殺ダニの作用機作が異なる殺ダニ剤を使用するのが、今のところベターな方法です。バラに登録適用のある殺ダニ剤が少ないので、予防的散布ではなく、ハダニを見つけたら散布するよう心掛けてください。
| <薬剤調合例:水1リットル当たり> |
| 【A】 |
| オルトラン水和剤 |
1g |
1000倍(殺虫) |
| ダコニール1000フロアブル*1 |
1g |
1000倍(ウドンコ病・クロホシ病) |
| 展着剤 |
0.2ml |
5000倍 |
*1 "ダコニール1000フロアブル"は夏の高温時に薬害が出やすいので、 7〜8月はフルピカ水和剤の方が安全です。 |
| 【B】 |
| アファーム乳剤 |
0.5ml |
2000倍 (殺虫) |
| フルピカ水和剤 |
0.5g |
2000倍 (ウドンコ病・クロホシ病) |
| 【C】 |
| アドマイヤーフロアブル |
0.5ml |
2000倍 (殺虫) |
| サンヨール |
2ml |
500倍 (ウドンコ病・クロホシ病) |
| |
| 【ウドンコ病が発生した時(追加)】 |
| バイコラール水和剤 |
0.5g |
|
| またはトリフミン乳剤 |
0.5ml |
|
| 【クロホシ病が発生した時(追加)】 |
| サプロール乳剤 |
1ml |
|
| またはマネージ乳剤 |
2ml |
|
| ※ウドンコ病とクロホシ病が同時発生した時は、一緒に追加します。 |
| 【ハダニを見つけたら (追加または単独)】 |
ダニトロンフロアブル ・ コロマイト水和剤 ・
ニッソランV乳剤 ・ ダニカット乳剤 ・ テルスター水和剤などを散布します。 |
| |
|
|
これらの殺ダニ剤は、それぞれ殺ダニの作用が異なるので、
3〜4種類を用意して使用すれば、抵抗性の問題はクリヤーできると思います。
(注) 倍率は説明書を見てください。
なるべく同一薬剤は年1回の使用としてください。
尚、バラに登録適用がない薬剤は使用しないでください。
2. 施肥・潅水

開花後の疲れを癒し、樹勢の建て直しをしていたバラ達は、多雨と日照不足から、一遍に酷暑のシーズンを迎えます。バラにとってはつらい日々ですが、この夏を如何に成長させるかが、秋花の出来、不出来のポイントなので、梅雨明け後に積極的な肥培を試みましょう。
月初めに高度化成肥料を1株20gほど撒き、梅雨が明けたら、冬期元肥の半量の有機質の発酵済み肥料と過リンサン石灰100g。そのほか硫酸マグネシウム200g、カルシウム200gほどを表土に撒き、腐葉土、わら、牛糞、堆肥などでマルチングします。
マルチングして、表土が膨軟なところでは、根が表土近くまで上っているので、中耕の必要もなく、中耕するとかえって根を切るので、具合が悪いようです。そのまま肥料を上に乗せ、更にやや厚目にマルチングし、防暑してやるとすくすく育ってくれます。
元肥の肥料があまり遅れると、秋花の開花時まで肥料分が残り、思わしくないので、少なくとも7月中に施肥してください。
尚、6月のシュート発生が少なかった時は、特に早目に施肥すると、シュートの発生を促すきっかけとなることが多いようなので、早目早目の施肥と、化成肥料も1〜2回多くしても、この時期ならよいでしょう。
ここで施肥量のことに触れたいと思います。難しいと思われる方は飛ばしてください。
普通、分かり易くするために、バラ1株当たりの量で示すことが多いのですが、本当は栽培面積当たりで述べるべきなのです。坪当たり3本植えの場合と6本植えの時とを同列には扱えません。例えば、3本植えのとき1株当たり500g施肥したとすれば、坪当たり1.5kgになり、6本植えなら倍量の3kgとなります。密植になればなるほど面積当たりの肥料分が多くなり、密植で小さくなった株には肥料過多となります。坪当たり3〜4本が標準で、それより多くなると密植状態なので、6〜8本ぐらいだったら、1株当たりの施肥量は半分の量にしてください。
今月は暑さのため乾燥が激しいので、バラの木は水を欲しがります。週何回といわず、乾いていたら十分与え、常に枝葉がみずみずしい状態になるよう努めましょう。年間を通じて潅水回数が最も多いのが7〜8月で、砂地の庭では連日潅水になることもあり、正に‘バラは水で育つ’を実感する季節なのです。梅雨時に排水の心配をしたような庭でも、潅水による根腐れもまずありません。表土が乾いたらたっぷり潅水してください。
鉢植えのバラは、いつもの通り発酵済み肥料なら月1〜2回の置肥、高度化成肥料の追肥なら月2回ほど続けます。鉢植えの置肥は、どのくらいやればよいのか迷うものです。
5月のお手入れにも述べましたが、およその目安を示しておきます。
| 〔鉢植えの置肥え量〕 |
鉢の大きさ(号) |
肥料の量(乾燥重量) |
鉢土の量(リットル) |
有機肥料(g) |
高度化成(g) |
3 |
1〜2 |
0.3〜0.5 |
0.25 |
4 |
2〜3 |
0.5〜0.8 |
0.5 |
5 |
5 |
1.3 |
1 |
6 |
10 |
2.5 |
1.75 |
7 |
15〜20 |
4〜5 |
3 |
8 |
20〜25 |
5〜6 |
4 |
9 |
30〜35 |
7.5〜9 |
6 |
10 |
40〜50 |
10〜13 |
8 |
3. マルチング

マルチングの効用は、ご存知のように有機質の補給と、水分の蒸発防止、地表面温度調整などですが、夏も成長期間として利用するために、マルチングによる地表面温度の低下は欠かせない条件です。
春は立派に咲いても、秋は無惨な姿になることがしばしばですが、多くの場合、マルチングを施さないための失敗のようで、薬剤散布や施肥をいくら行っても、マルチングなしでは、関東以西の夏は越しにくいものです。
腐葉土、わら、堆肥、牛糞、畳、古よしず、など何でも結構ですから、とにかく根元を覆い、涼しくしてやりましょう。砂地や黒土の乾燥地でも十分厚くマルチングすると、夏バテもなく、秋にも立派な花が咲くようになるので、是非実行してください。秋に良花を咲かせるための7〜8月の手入れで、大切なことだと思います。
4. 枝の更新

ここで述べることは四季咲き大輪種(HT) が中心で、フロリバンダやイングリッシュ・ローズ、ミニバラなどはもう少し気楽に扱ってください。花も1年中咲かせて楽しみましょう。
春の花が咲き終わると、次の花を咲かせようと太くたくましい新しい枝が根元付近や幹の途中から伸び出します。これがシュートといわれる、次世代の枝で、秋花や来春の花枝のもとになる主幹枝です。7月はこのシュートの管理が大切な手入れになります。つるバラやオールド・ローズなどは1季咲きが多く、春だけで夏も秋も咲きませんが、四季咲きといわれる種類は、新梢が伸びれば花が咲きます。7月の初旬頃には春花が咲いた枝から伸びた枝に2番花がきれいに咲きますから、十分堪能しましょう。その後も3番花が8月に咲きますが、さすがのバラも夏の疲れで、みすぼらしい花になりがちです。
大輪種は、あまり咲かせすぎると秋花はやはり小さくなるので、8月中は休ませて栄養を蓄えるのが一般的です。2番花を愛でた後はシュートの育成に注力します。シュートの育て方で大切なのは、シュートの先端に蕾が見えてきたら、上から数えて本葉2~3枚ほどつけて指で折り取ります。(ピンチという)折り取った先からまた芽が伸び出し、再び蕾が見えたら1回目と同様にピンチします。これをくり返して花は咲かせずに、8月まで続けます。詳しくは‘育て方アドバイス’をご参照ください。
シュートの充実度に応じて、春花を咲かせた旧主幹枝は積極的に切除し、成長の流れを新しいシュートに更新します。8月末から9月初めの秋の剪定時には、新しいシュートだけにするのが理想です。しかし、木が古くなるとあまりシュートが出なくなり、ひどい時はまったく出ないこともあります。そんな時は春花が咲いた枝や、その付け根から伸びた枝も残してください。
‘バラの葉1枚は血の一滴’というバラ界の格言がありますが、まゆつばものです。葉による光合成が大切だという意味ですが、春花が咲いた枝の葉が光合成をして栄養分を作っても、それは、各自の枝の芽を伸ばすことのみに使われ、弱っているほかの枝があっても、栄養分を回して援助することはほとんどありません。独立独歩なのです。それを逆手にとって、シュートが出ない時、春花が咲いた枝から伸び出す芽を片端から摘み取ると、光合成の栄養分が行き場を失い、根元付近に転流し、その栄養分を使ってシュートが出てくることがあります。
そのようわけで、秋までに切られる運命の枝は、積極的に切除したほうがよいのです。樹形がさびしく感じますが、シュートの生長を最優先に考え、シュートの葉を病虫害で失わないことに専念しましょう。関東以西では9月1日を中心に、前後1週間が剪定の適期ですが、その時にシュートに葉が無かったら、葉による光合成産物も無いので、秋花はまったく期待できません。ほとんどがブラインドといって花がつかない枝か、咲いても栄養不足のみすぼらしい花で、
がっかりさせられます。
尚、シュートの育て方やつるバラについては‘
育て方アドバイス'をご参照ください。
5. 鉢替え

鉢植えの新苗は元気に育っているでしょうか。まだ新苗購入時のペーパーポットのままだったり、素焼鉢やプラ鉢でも、そろそろ鉢底から白根が出てくる頃です。これは鉢内に白根がいっぱいで植え替えて欲しいサインです。普通大苗の場合は冬の植え込み時に7号とか10号とか定めて植えるので、鉢替えの必要はないのですが、新苗は小さな鉢に植えてあることが多いので、鉢替えが必要になります。5号鉢なら7〜8号鉢、6号鉢なら8〜9号ぐらいの鉢に植え替えましょう。
根土(根鉢)を崩さないようにそっと抜き、あらかじめ新しい鉢に少量の培養土を入れておき、その上に置きます。培養土は、赤玉土と腐葉土(堆肥)6:4ぐらいの割合です。これは一例ですから、あまりかけ離れていなければ、配合は自由です。ホームセンターなどで売られているバラ用の培養土でも結構です。鉢土を乾かしぎみにして植えると、根土が崩れないので、根傷みがなくなります。
尚、鉢替えは案外面倒なのと、後述するような理由で、最終鉢の大きさを決めて、1度だけ鉢替えされても結構です。
根がびっしり巻いて堅くなっている時は、鉢替えのタイミングが遅れています。あまり遅くなると根詰まりして、水や肥料吸収が困難になり、成長が阻害されます。そんな時はそのまま植えると外側に根が伸びないことがあるので、根を少しほぐし、巻き癖を直して植えてください。植え終わった時、鉢土の表面が鉢の縁から2cmぐらい下がるように植えます。いわゆるウォータースペースを取って、水が鉢外に流れたり、肥料を無駄にしたりしないためのスペースです。根鉢の周囲にも培養土を入れ、潅水して落ち着かせます。培養土に肥料は混ぜないで、1週間ほど経ったら、鉢の大きさに応じて置肥します。
従来鉢植えのものは、小さな鉢から始めて2回ほど植え替えるのがよいとされていました。そうすることで根が多くなり、限られた鉢土の量を有効に利用できるとされてきました。ところが最近の研究では、小鉢に植えられたものは、鉢替えをしても最初から大きな鉢に植えたものより小さくなる。原因は、植物の根が横に伸び、鉢壁に当ると根が屈曲し、曲がった付近から側根といわれる根が出るとともに老化ホルモンのエチレンが発生し、成長を阻害する。鉢壁に沿って巻く根は、茶褐色化して肥料分も吸収しなくなります。
また、「キクを0.2リットルの土だけで栽培したときと、その土に0.2リットルのガラス玉を加えて0.4リットルにして栽培したときでは、土の量は同じでも0.4リットルの容積にした方がよく育つ。養水分を過不足なく与えて栽培してもそうである」(花卉園芸大百科 2 土・施肥・水管理 農山漁村文化協会発行より引用)
興味ある記事です。バラについての研究ではないのですが、多分同じことだと思います。新苗購入時に大鉢に植えてあるものはないのですが、従来のように細かく鉢替えするのではなく、最終鉢の大きさを決めて、1度だけ鉢替えするのがよいのではないかと思います。
尚、鉢替えの培養土は、最初の培養土となるべく同じものを使ってください。例えば、赤玉土を使っていたものに、鉢替えに黒土を使ったりすると、まったく根が伸びなくなったりします。
文責・成田光雄